被災地レポート:岩手県山田町 [2011/04/03 (被災後:3週間)]

(JOCA災害情報MLより転載:個人情報については削除)
協力隊OB(岩手県青年海外協力協会)から現地のレポートが届きましたので以下に転載します。


皆様方からいつも温かいご声援をいただき、たいへん励みになっております。
被災から3週間が過ぎましたが、岩手では未だBasic Human Needs が満たされていない状況もあり、また、町が復興に向けて動き出してきたことも相まって状況が日々変化しておりますので、気がついたことを以下にご報告したいと思います。

◎Basic Human Needs 充足状況
・衣食住
衣類については支援物資がだいぶ行き届いていますが、所によっては下着類が若干不足している状況があるようです。また、物資が末端の人々まで届いていない、必要な人に必要なものが届かないという配布ロジに未だ問題があるようです。
食についてはご飯、おにぎり、インスタントラーメンのようなものはだいたいどこでも配布されるようになってきています。ただ、副菜のようなものはまだ不十分ですし、栄養バランスの面でもまだまだ問題がありそうです。避難所によって給食の状況に格差があります。また、部分的に残った自宅で避難生活をしている人は自力で食を確保しなければなりませんが、公的支援がほとんど届かないので、買い出しに行く足がない、仕事も失い生活資金的にも厳しい、ガスなどの調理用の燃料が確保できないといった問題が発生しています。
住については、仮設住宅の建設が始まりましたが、そもそも被災地には平地が少なく、用地確保が難航しているため遅々として進みません。また、内陸部や他地域への一時避難もあまり進んでいません。これは、地元を離れると生活再建に必要な情報が入らなくなる、子どもの学校の問題、自分だけコミュニティーから抜けづらい等々の事情があるようです。
衣食については最低限のラインが確保されていますが、住についてはその見通しすら見えておらず、大きな課題と言えます。

・インフラ
固定電話、携帯電話、電気はだいぶ回復してきました。市町村によって格差はありますが、水道は部分的ながら回復しています。下水は汚水処理施設が破壊された市町村もあり、釜石などでは大きな問題になっています。電話、携帯網の回復によりメールなどは通じやすくなっています。

・教育
学校が使用できない所もあり、廃校を活用したり、被災を免れた近隣の学校に間借りして再開する動きが出ています。始業は半月から一ヶ月程度遅くなりそうです。

・医療衛生
病院、開業医なども被災しており、まだ十分ではありませんが、各種の支援の方々が入っており、最低限は確保されているように見えます。医薬品なども入ってきているようで、医療用品が不足しているという状況は聞こえてきません。

◎生活環境
・燃料
ガソリン、灯油とも被災地においてはだいぶ充足してきました。行列をして買うという状況は日ごとに改善されており、被災地においてはだいたいいつでも買える状況があります。ただ、ガソリンスタンドが被災した地域では、身近な場所で購入できないという問題と、灯油などの配達サービスが機能していないので、車のない高齢者などは暖房用灯油の確保が難しいといった問題がまだあります。また、盛岡などでも燃料はだいぶ入手しやすくなってきていますが、ガソリンスタンドも休業しているところも多く、安定的供給が確保されるにはもう少し時間がかかりそうです。

・燃料が入手しやすくなったことで車を持っている人たちの動きが活発になってきました。これにより被災地、特に町の中では交通渋滞が激しくなっています。釜石市では中心部で未だに電気が通っていないので信号が機能しておらず、時間帯によっては大渋滞が発生している模様です。また、人と物の動きが活性化してきましたので、物流、支援物資の確保・供給がスムーズになってきたほか、避難民の移動も活発になってきて、避難所生活をしている方が少しずつ減ってきています。

・避難所生活
100人大規模避難所では、行政の支援、住民の自治組織が機能してきているところもあり、比較的安定した状況になってきていると思いますが、避難生活が長期化してきていることから、給食の安定的供給、心身の健康の問題、ストレスによると思われる住民間いざこざなどの課題が見えてきています。また、自宅難民に対する支援が薄く、避難所よりも自宅にいる方が生活がしづらいというところもあるようです。また、避難所を統合する動きも出てきています。

・一時避難
被害のほとんどない内陸部の都市などへ一時避難する対策が進められていますが、今は故郷を離れたくない、自宅の整理をしたい、家族がまだ見つかっていない、自分だけ「普通の生活」をすることにためらいがある、慣れたコミュニティーの中で暮らしたい等々の心情もあるようで、思ったほど進んでいません。まずはとりあえずでも落ち着く場所の確保が生活再建の第一歩かと思いますが、このような状況にもどかしさを感じます。

・交通機関、道路
だいぶ回復してきております。県内の被災地へはだいたいどこでも公共交通機関又は車利用で入ることが出来るようになりました。また、新幹線は盛岡以南の開通は今月下旬頃とのことです。高速バスはほぼどの路線も回復しました。(運転本数は従前どおりではありませんが)

・一般物資
被災地でもスーパーマーケットが開いており、物資も部分的に不足しているものの、最低限のものは購入可能です。ただし、車がないと買い出しに行けない方々も多数おり、買い物難民対策がまだ手薄です。

◎生活再建
・まだほとんど手つかずです。資金の確保、生活場所の問題、家族を失った方の生活保障、心のケア、仕事の確保、教育・福祉・医療サービスの復旧など課題が山積しています。
私事ですが、この4月からパーソナル・サポーターという新しい職に就きました。これは、生活困窮者(もちろん被災者も含みます)に寄り添い、伴走しながら生活再建を支援する「専門知識を持った良き隣人」のようなものです。国のモデル事業として1年間やりますが、縦割り社会の弊害を乗り越え、個別、横断的・継続的に生活再建を支援していきますので、多岐にわたる問題課題を抱えた生活困窮者のかけこみ寺のような窓口になると考えています。たらい回しはせずに、来る者拒まず、去る者は少し追いかけ、「出会ったら看取り、看取られるまで」おつきあいするといったサービスをイメージしており、この事業は被災者をはじめとするすべての困窮者の生活再建の役に立てるのではと思います。(長期失業者、精神疾患のある方、自殺しそうな方など、困っている方ならどなたでもその生活に寄り添います。)
国の復興スキームの中にもぜひ取り込んでもらいたい事業だと思っています。これがないと、被災者はその生活再建を自力で行わなければならず、強い者は生き残り、弱い者はくじけるといった問題が発生するものと推測されます。

◎今後の支援のあり方
・BHNが充足されてきており、次の欲求に対する支援が必要な段階にきています。すなわち、医療、教育、福祉、より快適な生活の回復等々に対する支援が必要です。これは物的な支援のみならず、人的な支援も幅広く求められることになります。この三週間ボランティアに携わり、その支援アプローチは途上国におけるそれとほぼ同質のものであると感じました。支援者との間に信頼関係を築く、持続可能・自立可能な支援のあり方の模索、needs wants と supply とのマッチング等々、我々が任国で経験し、悩み、確立した手法が被災地で活きます。また、OVの専門知識も被災地支援に大きく役立ちます。このことから、JOCAとしても被災地向けに「国内協力隊事業」を立ち上げる位のスキームで支援が出来たら理想的だと考えます。(もちろんこれには大きな活動資金と人材が必要ですので、たいへんな作業になると思いますが。)
国際ボランティア経験者集団としては、ここにその経験による社会還元の出番を求め、力強く活動していけたらと思っています。

以上、思いつくままにまとまりなく記述しましたので主観が入り込み、また過不足もあろうかと思います。
また今後も機会を捉えて報告方々、気になることなど紹介していきたいと思います。

この度の被災にあたり、全国のたくさんの方々から物的支援、人的支援、応援・励ましのメッセージ、温かいお心遣いをいただき被災地のOB会の担当として改めて感謝申し上げます。

この惨事をきっかけに、みんなの力でそれを乗り越え、日本が、日本人が他人の痛みのわかる社会(人)、連帯の意識を持つ社会(人)、助けあい、分かち合いが普通に出来る社会(人)の如く変革され、将来に希望を持ち、精神的幸福度の高い社会(人)になってくれることを切望しています。

今後ともご支援のほどどうぞよろしくお願いいたします。
ありがとうございました。